特急いなほ

初めて、日本海の方から山形へ入った。
上越新幹線で新潟へ、新潟からは在来線の特急いなほで鶴岡を目指す。
途中で台風を追い抜いたのが分かった。
予定を一日早めて正解だった。

新潟を過ぎると、列車は日本海すれすれの海岸線を走る。
それが楽しみで、陸路にしたのだ。
同じ山形県に入るのでも、わたしはいつも、内陸を走る新幹線「つばさ」を使っている。
でも今回は日本海側の旅なので、いつもとは逆側から入った。
県境を超え、山形に入った途端、なんだかホッとする。

日本海が、最高だった。
ここはコートダジュールかな? っていうくらい、風光明媚な景色が続く。
昔は、日本海は暗くて寒くておどろおどろしいイメージしかなかったけれど、ようやくこの歳になって、日本海がいいなぁと思えるようになった。

予約していたホテルは、田んぼの真ん中に建っている。
なんだかとてもいい感じ。
お部屋に机もあるし、ベッドは硬いし、掛け布団のシーツをマットレスの下に入れ込んでいないのも嬉しいし、わたしにとっては理想的なホテルだ。
しかも、露天風呂のお風呂に素敵なサウナがある。

昨日は、夕方5時半から入って、気がついたら夜の10時半まで、露天風呂で過ごした。
ベルリンのサウナ以来の、心地いいサウナを満喫した。
湯船のすぐ向こうが、広い塀に囲まれた(稲はない状態の)水田になっていて、不思議な開放感を楽しめる。
水面をアメンボがスーイスーイと泳ぎ、鳥や、トンボなどの生き物たちが、すぐそこまで遊びに来る。

サウナ上がりに夕日が沈むのを見て、誰もいない湯船でぼーっとしていたら、今度は遠くの空に花火が上がってラッキーだった。
どうやら、本来8月に大々的にあげる花火を、今年もコロナ禍でできないため、毎晩、数発ずつあげるようにしているのだという。

それから星がたくさん現れ、また誰もいなくなると、こっそり湯船で泳いだり、ヨガをしたり、瞑想をしたり。
カエルの声をあんなに近くで耳にするのも、久しぶりだった。
たった一匹の小さなカエルのはずなのに、その声量は凄まじく、バリトンのオペラ歌手のよう。
完全にサウナスイッチが入ってしまい、サウナ→水風呂→風干し→温泉→またサウナ、の循環から抜けられなくなってしまった。
ある一線を越えると、わたしは永遠にお風呂に居たくなってしまう。

朝は、出羽三山を見ながら、またサウナ。
台風が接近中らしく、霞の中に山の姿がぼんやりと浮かんでいる。
神々しい山がそびえ、その山の麓に人々の暮らしがあり、田んぼが広がる。
水田って、本当に美しい。

雨も上がって青空がのぞいているので、サクッとレンタサイクルをして、ラーメンでも食べに行ってこようかな。
本がたくさんある宿なので、こもっていても少しも飽きることがないのがいい。