波に浮かぶ港の朝ごはん
伊豆大島で滞在したのは、波浮という集落だ。
波に浮かぶ、と書いて、「はぶ」と読む。
ここは、天然の港がある島の南に位置する地区で、昭和10年から20年頃は、ものすごく栄えた場所だという。
宵越しの金を持たない豪傑な海の男たちが、波浮港に立ち寄っては、散財した。
港には旅館が立ち並び、遊郭が軒を連ね、土地の値段も日本でもっとも高い時代もあったというから驚いてしまう。
漁獲高もかなりあり、朝、港に行けばそこらじゅうにお魚が落ちていたそうな。
けれど、それも今は昔の話。
ある時期からガクンと魚が取れなくなり、しかも船の技術が進歩したことで波浮港に寄港せずとも航海できるようになった。
現在では空家が増え、そこに住んでいるのはわずか450人ほど。
夜はゴーストタウンのようで、明かりも乏しく人もいなくて、正直、ひとりで歩くのには勇気がいる感じだった。
それでも、かつての面影を残そうと、少しずつ若い人が波浮に移住して、新しい風を吹かせている。
日曜日の朝は、そんな移住組のひとりが営む素敵なカフェへ。
おりしもドラマ『東京放置食堂』の舞台に使われていたので、お客さんが続々とやって来る。
とっても居心地のいいカフェだった。
それもそのはず、わたしの友人でもある井田君の設計だという。
島にある黒磯作業所で作っているという天然酵母のレーズンパンのトーストとカフェオレで、島に流れるのんびりとした日曜日の朝の時間を堪能した。
島の名産である大島バターと椿オイルを混ぜた特製バターをたっぷりとつけながら、しみじみ、幸せが込み上げてくる。
カフェを営む女性店主もものすごくカッコよくて、これまでいい仕事をしていい生き方をしてきたんだな、というのが表情や仕草からもれなく伝わってきた。
あまりに居心地が良くて長居したくなり、デザートがわりにホットチョコレートもお願いする。
こういうカフェが、近所に一軒でもあれば、わたしは生きていける。
午後は取材に出かけ、伊豆大島の気持ちのいい場所をたくさん教えていただいた。
曇り空の海もまた美しくて、惚れ惚れした。
夜は、カフェの女性店主に教えてもらったラーメン屋さんへ。
実は、波浮には晩御飯を食べられる店が極端に少ない。
しかも、日曜日はお休みのところも多くて、気をつけないと食いっぱぐれてしまう。
でも、その前に宿の近くの高林商店で軽く一杯。
ここは、子どものおやつから大人のお酒から明日葉からトイレットペーパーまで何でも扱う町の商店なのだけど、店の奥に小上がり席があって、店で買った商品を好きに飲んだり食べたりすることができるのだ。
それで、ルックスのかわいい山形の果実酒と、おつまみに干し芋を買って温めてもらい、食前酒とあいなった。
楽しい。
干し芋、そんなに食べないかと思ったら、ふたりで一袋をペロリ。
山形の南陽市のグレープリパブリックで作られているリンゴとラフランスの発泡酒もドライで味わい深く、すいすい飲める。
ここでも店主に、空き家情報など、島のあれこれをお尋ねする。
その足で、ラーメン屋さんへ向かった。
夜道は、真っ暗。
星が、キラキラ輝いている。
まずは島海苔と明日葉のお浸しを注文し、ラーメンは、迷った挙句、お店の一押しだという塩味の島海苔ラーメンにする。
大正解だった。
貝の出汁と、島でとれた塩で味付けしたスープで、麺もおいしいし、何より島海苔がこぼれそうなほどたっぷり入っている。
あぁ、おいしい、と何度もつぶやきながら麺を啜った。
地元の方とも交流できたし、大満足で店を出る。
そして帰りは、船で帰ってきた。
老後は伊豆大島で暮らすのもいいかも、なんちゃって。
何より、東京から近いのがすごくいい。
おまけで、波浮港のちょこっとおすすめ情報です。
一押しは、なんと言っても、Hav cafe。
金、土、日のみの営業だけど、味も雰囲気も女性店主も、最高です。
その同じ通りにある、港鮨も、おいしかった。
地魚の握りが、1950円だったかな?
お寿司を食べるなら、港寿司さんへ。
揚げたてのおいしいコロッケやメンチカツが食べられるのは、鵜飼商店。
地元の人は、差し入れなどで、100個とかまとめて買うそうです。
お店でお酒が飲めるのは、高林商店。
新鮮な明日葉や、おいしそうなコッペパンも買えます。
ラーメンを食べたのは、よりみち。
ここは、日曜日もやってます。
味も、goodです!