ハンドルを握る
実は今、自動車の教習所に通っている。
これには、自分でもびっくりだ。
環境のことを考えれば否定的な立場だったし、住む場所も、「車がなくても生活できる」というのを基準に選んできた。
自分で自分のライフスタイルが選べるようになってからはずっと、車とは縁のない生活を送っている。
けれど、ふと思ったのだ。
もしも車を運転することができたら、住む場所も含めて、もっと選択肢が増えるのかな、と。
それに、車に乗って自力でどこへでも行けるようになったら、取材も今より格段にしやすくなる。
ゆりねとのデートも、幅が広がる。
それに、最近は環境に優しい車の開発が進んでいるし、自動運転の技術も進化している。
だったら、そろそろ車を解禁にしてもいいのではないか。
日本に戻ってから、そんなことを考えるようになった。
そして、今月から、教習所に通い始めた。
自慢にもならないけれど、わたしは車に関する知識がほとんどない。
つい最近まで、「セダン」って何? というレベルだったし、4WDと2DWの違いというか、そもそも通常は前輪しか動いていない、という事実も知らなかった。
そんな状況で、いきなり実技から入ってハンドルを握ったのである。
あわわわわわ。
時速10キロでも、おっかない。
真っ直ぐ進むのも難しい。
遊園地のゴーカートだって、ほとんど乗った記憶がないのに、教習所の中とはいえ、いきなり運転させるなんてかなり無謀なんじゃないかと焦った。
実技の第一回目は本当に泣きそうになって、逃げるように帰ってきた。
こんな調子なので、先は長く、ゴールは全く見えない。
もしかすると、本当に怖くて、やっぱり途中で断念、という結果だって十分に考えられる。
自分で、これは無理! と判断したら、いつでもやめようと決めている。
このあたりは、かなり慎重だ。
それでも、ちょっとずつ世界が広がるようで、なんだかワクワクしているのも事実だ。
道行く車を眺めては、あんな車がいいなぁ、なんて思って、家に帰ってからネットで車種を調べたりしている。
これまで、わたしの小説に出てくる人たちは、ほとんど車の運転をしてこなかった。
パッと思い浮かぶのは、『にじいろガーデン』の泉さんくらいだ。
なんとなく、わたし自身が運転のイロハを知らないので、書くことに二の足を踏んでいたというか、確信を持って描写することができなかった。
でもこれからは、作品の中で、ハンドルを握る主人公や登場人物が増えるだろう。
それだけでも、教習所に通った甲斐があるような気がする。
世界が広がるのは、いいことだ。
早く自動運転の技術が進んで、目的地の住所を入れたらもう車が勝手に動いて連れて行って駐車までしてくれるようになればいいのにな。
環境にもうんと優しいそういう車が、お手頃価格で手に入る世の中になったら、すごく嬉しい。