ジャガー
最近は、朝早く散歩に行くようにしている。
起きたらすぐ、ゆりねにハーネスをつけて、外へ。
朝の散歩は気持ちいい。
まだ暑くなくて、時々ひんやりした風が吹くから、ゆりねの足取りも軽く、ぴょんぴょん跳ねるように歩く。
夏の朝は特に開放的で、雨戸を開ける音、テレビ(たいていはNHK)のアナウンサーの声、コーヒーの香り、家族の会話など、いろんな音や匂いがする。
先日、ゆりねのリードに引かれながら川沿いから一本中に入った路地を歩いていたら、おや、と足が止まった。
かっこいい車がとまっている。
車の免許をとって以来、人様の乗っている車が妙に気になるようになった。
素敵な車が通り過ぎると、つい後ろ姿を目で追いかけて車種をチェックしてしまう。
その車は、エレガントな形で、色はわたしの一番好きな、青みがかったライトグレーだった。
そして、車の前のところににょろっと、オコジョみたいなのが伸びている。
おぉぉぉぉ、これがJAGUARか。
なんとまぁ、気品があって、美しいのだろう。しばし惚れ惚れとした。
自分が乗ろうなんて夢にも思わないけど、見ている分には目の保養になる。
もうひとつ、車として好きなのはベントレーだ。
こちらも、わたしが運転したら車に失礼だけど、素敵だなぁ、と思う。
車には全く詳しくないけど、きゃー、素敵、と思うとベントレーだったりすることが多い。
まぁ、いくら宝くじが当たったとて、ジャガーもベントレーも選択肢には入らないけど。
わたしが車に求めるのは、安全であること。
そして、自動の駐車機能が付いていること。
となると、必然的に、国産の、ごくごく普通の車になる。
普通が一番、というのは、自転車に乗っていてしみじみ感じる。
当初、わたしはせっかく乗るならカーゴバイクがいいなぁ、なんて夢見ていた。
前や後ろに、大きなカゴというか箱がくっついている自転車だ。
ベルリンにいたとき、結構な頻度で見かけた。
子どもを3人くらい乗せて楽しそうに乗っている姿を見て、いつか自分も、なんて妄想していたのだ。
でも、日本では交通事情が異なるし、あれを置こうとすると、それこそ車一台分の駐車場が必要になってしまう。
ならば、とめちゃくちゃ普通の自転車にした。
車輪の大きさも小さめで、これなら信号などで止まる時もきちんと地面に足がつく。
こだわったのは前にも後ろにもカゴをつけることで、これがものすごく便利で助かる。
ライトも暗いところに行くと自動でつくし、普通の自転車にして大正解だった。
先日、『天然生活』の特集で、わたしの自転車の写真が大きく載った。
こんなめちゃくちゃ普通の自転車が大きく出ちゃってどうしよう、と恐縮していたら、なんと、多数の問い合わせが来ているというのだから、びっくり。
しかも、皆さん大きなカゴに関心があるようなのだ。
世の中、わからないものだ。
かっこいい自転車も、おしゃれな自転車も、巷に溢れている。
でもわたし、もうそういうものに興味がないのだ。
いくらかっこよくても、おしゃれでも、乗りづらかったら、その時点で却下する。
本当に優れているものというのは、見た目も無駄がなく洗練され、しかも使いやすい。
美しさと実用性、両方を兼ね備えているものが、暮らしには大切なんじゃないかと思っている。
見た目だけよくって実際に使ってみるととんでも無く使いづらいものとか、そういうのはもうたくさんだ。
そういう面で、ジャガーとかベントレーは、どうなんだろう?
一回くらい、ハンドルを握ってみたい気もするけれど、若葉マークは似合わないなぁ。
朝、美しいジャガーを見に行くことが、ここ最近の密かな楽しみになっている。