みんなのワイナリー
初めて大三島を訪ねたのは、2017年の3月。
建築家の伊東豊雄さんが島起こしの一環として、レモンの耕作放棄地に葡萄の苗木を植えて、その葡萄で瀬戸内産のワイン造りに取り組んでいると知り、興味を持ったのがきっかけだった。
伊東さん曰く、大三島は日本で一番美しい島。
ちょうど『ライオンのおやつ』の構想を考えているときで、そのイメージと大三島が重なり、さっそく取材に行ったのだ。
その時、みんなのワイナリーのKさんに島を案内していただき、お話を伺ったり、きれいな景色を見せていただいたりした。
『ライオンのおやつ』には、その時に目にした光や口にした食べ物が、いろんな所に散りばめられている。
だから、瀬戸内を訪れるのは、ちょうど4年ぶりだった。
今回は、「雫」の心情をなぞるような気持ちで、もう一度島の景色を見ることができた。
一日目は、広島の三原港から船に乗って、生口島へ。
生口島から自転車を借りて、多々良大橋を渡り、大三島の大山祇神社を目指した。
前回は車での移動だったし、初めての土地だったのでわからないことだらけだったけれど、自転車で、しかも前半はひとりだったので、好きな時に好きな場所で立ち止まることができる。
自転車を止めては、写真を撮ったり、深呼吸したり、おやつを食べたり。
丸一年コロナで家にこもっていたこともあり、行く先々でものすごい開放感を味わった。
海沿いの道をサイクリングしていると、景色がどんどん変わっていく。
海の中に、ぽこぽこと島が浮かぶ光景は瀬戸内ならではで、本当にどこを切り取っても美しくて、ため息が出る。
久しぶりに嗅いだ海の匂いは、命を凝縮させたスープそのものだった。
風も気持ちよく、所々に桜が満開で、さざなみがキラキラ輝いて、最高の時間を満喫する。
特に、橋の上から眺める海と島の景色は最高だった。
その日は出来たばかりの銭湯のあるお宿に泊まり、夜は近所の商店街にあるお店に行って、たこ天卵とじ丼を堪能した。
二日目は、また自転車を借りて、今度は生口島の瀬戸田から因島の土生港までサイクリングし、そこからは船に乗って今治へ移動した。
船って、好きだなぁ。
船の中で船員さんが切符を集める時、制服姿の高校生には「おかえり〜」と声をかけているのも、なんだか微笑ましかった。
三日目は、今治市民会館で伊東豊雄さんとの対談があり、その後は松山に移動して、みんなのワイナリーでできたワインの試飲会に参加した。
久しぶりに、Kさんにもお会いする。
Kさんとの出会いなかったら、「田陽地くん」は登場しなかった。
それにしても、みんなのワイナリーで作られたワインが、めっちゃくちゃおいしくて感動した。
香りがよくて、味わい深く、正直、こんなにおいしいワインが日本でもできるんだ! とびっくりした。
普段からなるべく日本のワインを飲むようにしているし、おいしい国産ワインは増えているけれど、わたしは今まで飲んだ国産ワインでは一番好きな味だった。
道後温泉にある旅館、うめ乃やさんで出される地のものを使ったお料理もしみじみと五臓六腑に染み渡り、至福のひととき。
みんなのワイナリーでは、苗木のオーナーを募り、そのお礼としてワインが送られてくるシステムだ。
わたしもその場で早速オーナーになる申し込みをした。
まだワイン作りをはじめて五年足らずで、こんなにレベルの高いワインを作っているのだから、将来がすごく楽しみだ。
瀬戸内ワインを世界に、というのも決して夢ではない気がする。
そして、建築という視点から、島全体を考え、地面を整えることがはじめて、ワインを生産するという壮大な物語を、実際に実行できる伊東豊雄さんという人は、本当に素晴らしいと思った。
わたしは心から、伊東豊雄さんを尊敬する。
そんなわけで、3泊4日、思う存分瀬戸内を堪能し、たくさんのエネルギーをいただいて東京に戻った。
おまけ)
瀬戸内でおいしかったもの。
生口島で食べた蛸天卵とじ丼、生ワカメのお味噌汁、今治で食べたジャコカツ、生搾りのポンカンジュース、白楽天の焼豚玉子飯、松山・道後温泉の旅館「うめ乃や」さんのお食事、鯛のしゃぶしゃぶ
要するに、全ておいしかったのです。
みんなのワイナリーについての詳細は、こちらをご覧ください。
ネットでも、ワインの購入ができるみたいですよ。