雪の結晶

クリスマスは山小屋で過ごした。
文字通り、ホワイトクリスマス。
森は一面雪に覆われて、白い世界が広がっている。

雪道を歩くのにアイゼンがいいと達人から聞いていたので、早速アイゼンを装着して雪道を歩く。
最高だ。
アイゼンの爪がギュッと路面に刺さるので、ツルツルの氷の道だってなんのその。安心して闊歩できる。
久しぶりに、雪道を歩く感触を味わった。

冬の晴天率が日本一と聞いても、実は半信半疑だった。
でも、実際に行って連日の底抜けの青空を見て納得する。
夏の方がよっぽど雨が降って暗かった。

最低気温はマイナス10度くらいだけど、太陽が出るので、それほどの寒さを感じない。
長野というと豪雪地帯のイメージだが、日本海側は大雪になっても、雪雲はアルプスを超えられないので、八ヶ岳の辺りは、それほどの大雪にはならないらしい。
降っても、すぐにお日様のパワーで溶けてしまう。

雪道運転も、問題なかった。
とにかく、皆が口を揃えて言うように、スピードさえ出さなければ氷の上でも大丈夫。
もちろん、油断は禁物だけど。
下り坂では、ブレーキを踏まず、エンジンブレーキと自然に下りていく力だけを使って前に進む。
雪道運転は、なかなか楽しめた。
基本的にパウダースノーなので、降ったばかりの雪原を走るのは気持ちいい。
しかも、空は完璧な青空だし。

心配していた雪よりも、むしろ怖かったのは風の方。
これが噂の八ヶ岳おろしか、とすぐにピンときた。
荒れ狂うように風が吹きつけるのだ。
そのせいで、薪ストーブを焚いても、煙突から風が入って煙が逆流してしまう。
これには、参った。
煙くて、寝ている間に燻製になってしまう。

色々なことを、ひとつひとつ、自分の体でマスターしていかなければならない。

常にストーブで燃える薪のことを考えていなくてはいけないし、薪棚から薪を運んだり、山小屋に入るのにスコップで除雪したり、大雪が降れば気軽に買い物にも行けないし、もちろん寒いし、たいへんなことは山ほどあって、やることもいっぱいあって忙しいのだけど、でも、達人たちが口を揃えておっしゃるように、冬がいい、という言葉に深く深く納得した。
夏はもちろんクーラーがいらない涼しさで気持ちいいのだけど、でも山小屋の醍醐味は冬だと確信した。

今年は、車のことも含めて、森暮らしのお試しというか様子見の要素が強かったけど、来年からはいよいよ本格始動だ。
今、自分の生活力でどのくらいいられるのかを見極めているところだけど、来年はもっと長く冬を味わいたいと思う。

それにしても、車選びは難しい。
この夏いろんな車を試して、PHV(コンセントに差し込んで自分で充電できる)タイプの車がいいという結論に達したけど、現状であるものは、最低車高が低かったり、私が乗るにはちょっと大きかったりする。
どのタイプが本当に環境に良いのかも、わからない。
できれば、クリーンディーゼルとPHVのハイブリットがいいのだが、ない。

最初は100%電気で走る車にしようと思っていたけど、極寒冷地では充電してもすぐに電気がなくなってしまうと聞き、その選択は無くなった。
電気自動車が普及すれば、当然、原発の問題が出てくる。
一概に、何が環境に、地球に優しいのか、正直、わからなくなってしまった。
PHVで、電気だけでもっと距離が走れて、国産のコンパクトカーが理想なのだけど、帯に短し、たすきに長しで、どうしても自分にぴったりな車が探せない。
いっそのこと環境のことは無視して軽トラはどうかとか、もうそんなんなら馬に乗って移動してしまえないだろうか、とか、迷宮に迷い込んでしまった。

でも、もうそろそろ本気で車を決めないと、だ。
納期も遅れているというし。
それが、この冬いちばんの課題。

夜、酔った勢いで防寒して外に出て、星を見た。
すごいすごいすごい、天然のプラネタリウム。
車なんか来ないので、そのままゴロンと道に寝っ転がり、雪の上に大の字に手足を広げて星を見る。
最高に幸せな時間だった。

そして、朝起きたら、車の窓に雪の結晶が付いていた。
寒いから、雪の結晶がそのままの形で落ちてくるのだ。
自然が生み出す美しさに惚れ惚れした。

雪原には、点々と小さな生き物の足跡。
山小屋で過ごす冬もまた、素晴らしい。