黒島観光

朝一番の船に乗って黒島へ。
船の席の隣には、トモコと、トモコが5年前にうんだ娘のはーたんがいる。
トモコはお菓子を作る人で、わたしは彼女の作るお菓子の大ファンだ。
勝手に、妹みたいな存在だと思っている。

そのトモコが石垣島へ娘と遊びに行くと知ったのは、ほんの少し前のこと。
トモコと前回会ったのは、彼女が結婚して出産をする前だし、ねーさんにも随分会っていない。
当然、トモコの娘にもまだ会ったことがないわけで、もしかしてわたしが石垣島へ行けば、会いたい人たちにまとめて会える! とひらめいた夜の次の朝には、石垣行きのチケットを手配していた。
そして、びゅん、と石垣島へ飛んだ。
コガラと呼んでいるスーツケースの小さいのには、お土産のドイツパンをぎっしり詰めて。

トモコ&はーたん母娘は、石垣島が初めてだ。
わたしは、4回目か5回目か、ちょっと記憶が定かではない。
とにかく、石垣島でまたねーさんやトモコ、はーたんに会えるのは、最高に幸せなこと。
大好きな辺銀食堂がやっていないのは、ショックだけれど。
コロナのせいなので、仕方がない。

黒島に着いたら、まずは電動自転車をゲットし、ビーチへ。
地元の人が行くというビーチを自転車屋のお兄さんに教えてもらい、早速ペダルを漕ぐ。
トモコ&はーたんコンビは、自転車のふたり乗りが初めて。
一回危うく自転車が倒れそうになったけど、はーたんが踏ん張ったおかげで、なんとか大惨事に至らずに済んだ。

岩と岩の割れ目を、まさに「おぎゃぁ〜」という感じでなんとかくぐり抜けると、そこには美しい海が!

朝の海って、めちゃくちゃ気持ちいい。
トモコとはーたんは、そのまま海へ。
わたしは、まずはホテルでもらった朝ごはんを食べる。
海岸で戯れるふたりの母娘の姿は、何をしていても美しく、サンドウィッチをかじりながら写真を撮ってばかりいた。
こんなにきれいな、優しい海の色には、滅多にお目にかかれない。

朝食を終え、わたしもズボンの裾をまくって、海へ。
はーたんと手を繋ぎ、波打ち際をひたひた歩く。

黒島は、上から見るとハートの形をしている。
人よりも牛の数の方がずっと多くて、のどかな、南の島。
そういえば、『つるかめ助産院』を出した時によく、舞台となっている南の島のモデルは黒島ですか? と聞かれたものだ。
はーたんと遊びながら、ふと、そのことを思い出した。
そっか、黒島のことだったんだ、と。

もうこのままずっと一日中そのビーチで過ごしたっていいくらい気持ちよかったし、もしひとりで来ていたら絶対にそうしていたと思うのだけど、せっかく電動自転車を一日借りたので、島をサイクリングする。
あっちにも、こっちにも、牛、牛、牛。
方向音痴のトモコは、全然戦力にならん! と思っていたら、途中から雲行きが怪しくなり、地図係をトモコに任せる。
小学校を見に行ったり、海岸で石拾いをしたり、野苺を見つけたり、寄り道をしながら気持ちよく島を自転車で走る。

気温はもうかなり高くて、暑いのだけど、ふと木々が生茂るジャングルの脇を通ると、途端に空気がひんやりする。
ふわぁっと甘い香りがするのは、月桃の花。

海亀研究所へ着いたのは、お昼ちょっと前だった。
黒島は海亀が産卵する島として知られており、春先の今がちょうど産卵の時期に当たる。
人生で一度立ち会ってみたいことのひとつが、海亀の産卵だ。
だから、黒島に泊まって、見られるかどうかはわからないけれど海亀の産卵に期待する、というのも考えたのだ。
が、今回は身軽に石垣から日帰りで行こうということになっていた。
でもせめて海亀には会いたい、という3人の気持ちが一致し、わたし達は海亀研究所を目指した。

海亀さん、かわいい。
めちゃくちゃ、かわいい。
かわいいけど、結構噛みつくらしい。
スイスイ、スイスイ、プールの中を泳いでいる。
いつか、海亀の産卵を見ることができるだろうか?
あんなちっちゃな体で大海原へ漕ぎ出していくなんて! 想像しただけで、泣きたくなる。

黒島にはひとり、会いたい女性がいた。
海亀研究所の庭から、彼女に連絡をする。
トモコの友人の友人だそうで、トモコも会ったことはないという。
だから、もしお会いできたらラッキーだね、くらいに話していたのだけど、なんとなんと、これからわたし達を迎えに来てくれて、軽トラの荷台にのせて、島を案内してくださるというのだ。
きゃー!!!
そんな嬉しいことはないね、とみんなで大興奮した。

十五分後、軽トラで颯爽と迎えにきてくれた彼女は、とてもとても素敵な女性で、しかもわたしが着ていたのと同じ、リトアニアにあるユーラテという小さな洋服ブランドのワンピースを着ている。
そんなことって、ありえないのだ。
興奮のまま、トラックの荷台に乗せられて、まずはおそばやさんへ行ってお昼を食べる。
彼女とは、多くの共通点があるのだった。

まず、彼女の生まれは宮城県の仙台。
そこから神戸へ移り、更に南下して黒島へお嫁に来たという。
ラトビアやリトアニアなど、北欧の文化が大好きで、そういうところの手仕事を紹介したり、ご自分でも織物をやったりされている。
まさか、黒島で、ラトビア好きの東北人に会うとは!だ。

毛穴の数は、生まれた時から変わらないのだとか。
だから、彼女もわたしと同じで、暑いのがすごく苦手。
それゆえ北欧が好きなのに、今、南の島で暮らしている。
人生って、面白いなぁ。
本当に、何が起こるかわからない。

彼女が運転する軽トラでの島巡りは、最高だった。
風をびゅんびゅん体に感じて、植物達の葉っぱが作る緑のトンネルを通っていく。
夢を見ているみたいだ。
こんなに素敵な時間を過ごしてしまっていいのだろうか。

彼女の嫁ぎ先である牧場にも連れて行ってくれた。
生まれたばかりだという山羊が、かわいすぎる。
前脚と後ろ脚をふわっと両手で挟み込むようにして抱くといいと教わり、その通りにやってみたら上手に抱っこできた。

ゆりねより、軽くてふわふわしている。
牛のブラッシングもさせてもらった。
本当に本当に、優しい目をしている。
まだ生まれて2週間しか経っていないという猫の赤ちゃんもいて、愛と優しさにあふれた、素晴らしすぎる牧場だった。

結局、夕方の5時50分に出る船のギリギリまで黒島観光を堪能した。
桟橋から、桜色のワンピースを着た彼女がいつまでも手を振ってくれて、だからわたし達も、彼女の姿が見えなくなるまで、いつまでもいつまでも、手を振り続けた。
そして、それが終わってから、彼女が帰り際に持たせてくれたサーターアンダーギーを食べる。

この世の摩訶不思議は、人と人との出会いだと思う。
縁のある人とはどうやったって出会ってしまうし、逆に縁のない人とは、たとえ近い場所に長年住んでいたって、すれ違ったまま終わってしまう。
縁のある人とちゃんと出会える人生は、幸せに満たされる。

今日黒島で私たちが出会えたことのメッセージ。
それは多分、一度きりの人生ですもの、楽しまなきゃ損! ってこと。
そのことを、神様が伝えてくれたような気がする。