旅のお供
二泊三日で、山形へ行ってきた。
一年に一回は、お墓参りに行こうと思っている。
そのついでに、温泉に入ったりなんかして。
最近、頼もしい旅のお供を見つけた。
曲げわっぱである。
これが、一つあると何かと重宝するのだ。
たいてい、旅に出る時は家を出発するのが午前中になるのだが、そうすると朝昼ごはんの時間と重なってしまう。
駅でお弁当を調達し、食べながら移動を楽しむ、というのももちろんいいのだけど、わたしの場合、最近は特に自分が食べられるお弁当を見つけるのが、なかなか困難なのだ。
売店に並んでいるお弁当には、かなりの添加物が入っている。
食べられないわけではないけれど、食べると、具合が悪くなったり、眠れなくなったりする。
それで、曲げわっぱの登場である。
お弁当といっても、本当に簡単なものでいい。
たとえば、ご飯の上に、何か昨日のおかずののせたものだとか。
それを、ちょこちょこっと曲げわっぱに詰めて、電車の中で食べる。
曲げわっぱ、というのが、ちょっとした魔法なのかもしれない。
なぜかそこに入れるだけで、美味しさが増す。
今回、行きは曲げわっぱの中に皮をむいた柿とおやつを入れた。
冷蔵庫に残っていた栗蒸し羊羹を、ちょうどいい大きさに切ってラップで包んで入れておく。
チョコレートも、旅先でコーヒーを飲みながら甘いものが欲しい時など、あれば助かる。
ただ、もっとも能力を発揮するのは、旅館に泊まった時の朝ごはんだ。
旅館の朝ごはんは、早い。しかも、量がたくさん出てくる。
ふだん朝の時間帯に食事をとらないわたしは、どうしても食べきれない。
それで、朝ごはんの中からおかずを選んで、お弁当に詰めるのである。
そうすれば、せっかくの朝ごはんを残さずにすむし、お昼のお弁当も調達できる。
たいていの場合、朝食のお櫃にはご飯がたくさん入っているし。
おかずがたくさんの時は、おかずだけ曲げわっぱに詰めて、ご飯はお塩をもらって塩結びにするのもいい。
これが、行楽気分を盛り上げ、なかなか楽しいのである。
生まれ育った実家、文翔館の近くにあった雰囲気のいいカフェ、大沼デパート。
山形に行くたびに、一つずつ、思い出の場所がなくなっていく。
特に大沼デパートは、何かちょっとした良い物を買いたい時、必ず行く場所だった。
お小遣いを握りしめ、初めてひとりで大沼デパートに行ったのは、小学2年生の時。
母の日のプレゼントを買いに行ったのだ。
そして、薄いグリーンの石でできたブレスレットを買った。
今から思えばおもちゃみたいな代物だったけど、それがわたしにとっては、初めてのお買い物だった。
上京する時、大学の入学式に着るためのスーツを母と買いに行ったのも、やっぱり大沼デパートだった。
今回は、人の優しさに触れる旅でもあった。
泊まった宿に、うっかり化粧水を忘れてしまったら、担当してくれた若い中居さんが後から車で追いかけてくれて、駅までわざわざ届けてくれた。
八百屋さんから野菜を買って荷物を送ろうとした時、他所で買った荷物も入れていいですか? と尋ねると、笑顔で、どうぞどうぞ、とのこと。
先日、同じ場面で、近所の和菓子屋さんから荷物を送ろうとしたら、他所で買ったものはダメです、とピシャリと断られたばかりだったので、その大らかさに温かな気持ちになる。
都会の人から見たら、なんだかもたもたしているように感じられる場面があるのかもしれないけれど、人が優しくて、丁寧で、決して自慢しないし、改めて、山形の良さを実感した。
あと一週間くらいで、紅葉が見頃を迎えるとのこと。
美味しいものがたくさんあって、人が優しくて、自然が美しくて、山形って、こんなにいいところだったんだなぁ。
こんなに豊かなところで、自分は育ったんだなぁ、としみじみ。
帰宅して、さっそく八百屋さんで買ってきた原木なめこを食べる。
あー、なんておいしいのか。
山の恵みが凝縮されている。
二袋も買ってきたのに、ペンギンとペロリと食べてしまった。
キノコの中で、わたし、原木なめこが一番好きかもしれない。