原生林へ
もう何日も前の出来事なのに、いまだにあの美しさが忘れられない。
有明山の表参道登山口に広がる、原生林へ行った時のこと。
巨大な石には苔がむして、触るとまるで獣の毛を撫でているみたいにフカフカする。
あったかくて、しっとりと湿っていて、なんだか、鼓動まで感じそうな生命力だった。
朽ちた木、そこから芽を出すひこばえ、すでに朽ちかけているのに、根元が空洞になりながらも踏ん張っている達者な木。
一切の抵抗をせず、とにかく、なすがままの状態の森が、最高に輝いて見える。
共存共栄の、完璧な世界だと感じた。
自分だけたくさん水を吸おうなんて欲張りな木はないし、必要な分だけを吸収している。
大きな岩は、まるでそこが地球の縮図のように数多くの植物を育む土壌になって、新しい命が芽吹くベッドだった。
そして、水。
岩や土の表面から水が沸き、川となって流れてくる。
こういう場所に身を置くと、山が水瓶だというのが、本当に肌で実感する。
とにかく、最近のわたしは、きれいな水のそばにいるだけで、こころが満たされ、生きている喜びを感じられるようになった。
都会にいると人はどうしても傲慢になってしまうけれど、こういう自然の中に身を置くと、それがいかに間違った態度かがよくわかる。
人はもっともっと、謙虚にならなくちゃいけないなぁ。
魂が水でできているっていうのは、あながち間違っていないのかもしれない。
わたしの外の水と中の水が共鳴し、ひとつになるのを感じた。
美しいというのは、こういう世界をいうのだと思う。