伊豆大島へ

調布空港からプロペラ機でピューっと飛んで、25分。
伊豆大島へ降り立った。

この短い空の旅が、かなり好きだ。
前回は、八丈島へ行った。
そして今回は、伊豆大島へ。
空から地上を見ると、家とか車とか、全てがおもちゃのように見える。
そんな中、富士山だけがでーんと構えて格好良かった。

実は、小学6年生の卒業記念に、母と伊豆大島に来たことがある。
母と二人だけの、卒業記念旅行だった。
当時はジェット船なんてなかったから、船の中で一晩過ごし、朝早く、大島に着いたことは覚えている。

民宿に泊まって、朝ご飯をいただいた。
そのとき、椿の花の天ぷらが出て、母が興奮してたっけ。
今ふと思ったのだけど、当時の母は、今のわたしと同い年くらいだったのかもしれない。そう思うと、なんだか不思議。

昨日は、三原山を登って、火口を見に行った。
噴火から35年が経つという。
三原山は35年から40年周期で噴火しているそうで、ということはもうそろそろ次の噴火があってもおかしくない。
その度に、大地が溶岩で覆われ、一度完全に植生がリセットされる。
ということは、わたしが母と来た時に見た景色も、その時と同じではないということだ。

はっきりと覚えているのは、わたしが馬に乗りたいと駄々をこねたこと。
当時は、三原山を馬に乗って登って降りてくる観光馬がいて、わたしはせっかく来たのだからそれに乗りたいと抗議した。
多分、いいお値段だったのだと思う。
母はそれに乗せたがらなかったが、最終的には母が折れ、結局わたしだけが、馬に乗ることになった。
母は麓で待っていることになり、わたしは母と、やや険悪なムードで別れた。

けれど、その乗馬がものすごく怖かったのだ。
おじさんが手綱を引いて山を登っていくのだが、かなり急な斜面で、馬もよろけそうになる。
わたしは必死に馬の背中にしがみついていたが、内心、早く下りたくて下りたくて仕方がなかった。
荒凉とした砂漠のような山を、馬が転びそうになりながら黙々と登っていくのである。
わたしは何も楽しくなく、ただただ恐怖に震えていた。

小一時間恐ろしい時間を過ごし、また元の場所に戻って母の姿を見た時は、心底ほっとして、不覚にもわたしは涙を流した。
母のお財布事情も鑑みずにわがままを言ってしまった自分を、今は深く反省している。

そんなことを思い出しながら、三原山を登った。
空は晴れているものの、ものすごく風が強くて、突風が吹くたび飛ばされそうになる。
しかも、めちゃくちゃ寒くて、大袈裟ではなく、地獄を歩かされている気分だった。
何度も、途中で断念しようかと思ったけれど、今回いっしょに旅をしている仕事仲間のことを思うと、なかなか言い出せない。
寒さのせいか、近年まれにみる頭痛で、久しぶりの過酷な経験だった。

気持ちを励ましてくれたのは富士山だ。
伊豆大島からは、海の向こうに、バッチリと富士山が見える。
その姿が本当に本当に美しくて、騙し騙し、足を進めた。

昔は、三原山の火口に身を投げ、自殺する人もいたというけど、ここまで自力で登るくらいの根性があるなら、地上の世界でもまだまだ生きられるだろうに、と思った。
わたしだったら、あまりの辛さに火口まで行くのを途中で諦めて、下山してしまうかもしれない。

夜は、女子3人で、地元のお寿司屋さんへ。
地魚の握りを食べて、それから宿に戻って、デザートのくさやを焼く。

わたし、だいたいなんでも食べられるけど、くさやだけは、本当に苦手だ。
でも、地元の方たちは、日常的にくさやを食べているという。
同行のふたりは、くさやに初挑戦だった。
どうやら、良き出会いだったようで、島の焼酎を飲みながら夜遅くまでくさやに舌鼓を打っていた。

伊豆大島は、日本のハワイ島かもしれない。
東京から近いので、ふらりと遊びにくるのにちょうどいいですよ!