「生きる力」

今日は一日雨でした。

でも、夕方、歯医者さんに行くため外に出たら、むんむんするくらい、春の匂いが膨らんでいました。ちょっと、ふりまきすぎなんじゃないか、ってくらい。

花たちが、わーい、わーい、と喜んで咲いているように感じました。

 

わたしにとって、これさえあれば、の代表選手が味噌です。

味噌は味噌でも、自分で作る手前味噌です。

マーキングみたいなものかもしれません。

自分の居場所に、自分で仕込んだ味噌を置いておくと、それが、いつか帰る場所の目安になる気がするのです。

だから、東京の家にも、元気に帰ってこれますように、の願いを込めて、味噌を作って寝かせてあります。

 

味噌の材料は、大豆と、麹と、塩。

この3つがあれば、できます。

わたしは、仕上がった味噌の香りがいいので、生の麹を使っています。

麹に関していえば、今のところ、ベルリンで手に入る麹が、わたしにとってはベストなのですが。

 

大豆を水につけて、一晩か二晩かけてじっくりと戻し、それを弱火にかけて、こちらもじっくり火を通して、柔らかくなるまで煮ます。

煮上がったら、火を止めてそのまま冷まし、その間に塩と麹をよく混ぜておきます。

 

塩と麹を混ぜている時間が、とても好きです。

ぽわん、といい香りがして、癒されるというか、無心になれるというか、ちょっと瞑想をしているような気持ちになります。

ずーっとこのまま混ぜ続けていたいような、そんなリラックスした状態です。

ここに、ペースト状にした大豆を混ぜれば、味噌の原型が出来上がります。

 

いつもは、ブレンダーでガーッと一気に機械の力を借りて攪拌するのですが、今回は、ブレンダーの部品が見つからず、一瞬、どうしよう、と焦ってしまいました。

でも、ふと横を見たら、すりこ木があったのです。

以前のわたしだったら、部品がない時点で諦めていたかもしれませんが、今は、ブレンダーがないならすりこ木を使ってみよう、と思えるようになりました。

物は試しですから。

やってみてダメだったら、またその時点で他の手段を考えればいいだけで、やる前に放り投げるのは、それこそもったいない気がします。

 

五百グラム分の大豆を茹でると結構な量になるのですが、とにかく、すりこ木でつぶすことにしました。

確かに、ブレンダーで一気にやるより、時間も手間もかかります。

でも、不可能ではありませんし、やってみると、想像したほど大変でないこともわかりました。

 

ペチャペチャ、ペチャペチャ。

無心になって、ひたすらつぶしました。

そうしていたら、なんだか自分が、大昔の人になったような、不思議な気分を味わいました。

きっと、古代の人たちも、こうして身近な道具を使って、足元にある木の実なんかをつぶし、命を養っていたんだなぁ、と思ったのです。

そういう、根本的な営みは、全然変わっていないんだなぁ、と。

 

すりこ木でペースト状にした大豆と、塩と麹を混ぜ合わせ、ハンバーグみたいに丸めて、ジッパー付きの小さめの袋に入れたら、あとはわが家でぐっすりと休んでいただき、味噌になります。

これがわたしにとっては、生きる力です。

将来への、貯金みたいなものかもしれません。

 

今日の新聞に、とても素晴らしい言葉がのっていました。

NPO法人「よろず相談室」の代表、牧秀一さんの言葉です。

牧さんは、阪神・淡路大震災で被災された方の戸別訪問を25年間続けてこられました。

その一部を、ご紹介します。

 

「何をもって『復興した』と断言できるかと常々考えるけど、難しい。ただ少なくとも建物がばんばん建つことではないと思うよ」

「一番の問題は、被災して一度は絶望した人たちが、残りの人生をどう生きるかやねん。絶望する日々の中に『楽しかった』と思える時間があったり『いい日だった』と思えたりする。そんな日々が続くとしたら、その人は『少し復興できた』と言えるんちゅうかな」

 

明日で、東日本大震災から九年が経ちます。

改めて、犠牲になった方々のご冥福をお祈りすると共に、被災された皆さんの、暮らしや心の復興が少しでも前に進むことを願ってやみません。

コロナウィルスの影響で世界中がなんだか息苦しい今日この頃ですが、そういう時だからこそ、日々の暮らしの中に、ささやかな幸福を見つけることが生きる力に結びつくんじゃないかな、って思いました。