ごあいさつ

小説 『リボン』

2013.04.07 Sun

ずっと、一羽の鳥を巡る物語を書きたいと思っていました。
私も幼い頃、家でセキセイインコやオカメインコを飼っていた経験があります。
大切なインコを誤って逃がしてしまった時は、何枚もイラストを描いて、近所の電信柱に張り出したりして探しました。

すみれちゃんほどの愛鳥家とは言えませんが、私も鳥が大好きです。
そのことを公言していたら、私の周りには、どんどんかわいらしい鳥達が集まるようになってきました。
ブローチに指輪、オーナメント、私は今、そんな鳥達に囲まれて暮らしています。

この作品に取り組む前には、東日本大震災がありました。
だから、前回の長編作品『つるかめ助産院』との間には、深くて大きな溝があります。

想像をはるかに超える惨状を前にして、自分の力のあまりの無力さを痛感しました。
心の一部が完全に壊死してしまったようになり、そのすっかり感覚を失ったかのような壊死状態は、今もまだ続いています。

すぐにボランティアに駆けつけることもできず、大きなチャリティーをすることもできず・・・。
自分も同じ東北で生まれ育ったというのに、被災地に足を運ぶこともできません。傷ついてしまった人の話に、直接耳を傾けることもできません。
結局は、今まで通り電気を使い、普通に暮らしている・・・。
なんとなく、罪悪感というか、後ろめたく感じながら過ごす日々でした。

でも、そんな時にふと、自分の本分はなんだろうと考えました。
そして、自分はやっぱり物語を書くことしかできないのだと気づきました。
だからこそ、『リボン』は、とにかく優しい物語にしたかったのです。

『食堂かたつむり』でデビューをさせていただいてから、五年が経ちました。
長編としては、ちょうど五作目。あの頃は、次の作品が書けるのかどうかすら危うい状況でしたから、こんなふうに私が書くことを続けていられるのは、本当に、読んでくださる皆様のおかげです。

(作品の)出産も回を重ねるごとに、いちいち、死ぬ~、とか、苦しい~、とか叫ばなくてもよくなってきました。
陣痛の辛さもある程度は予想できるようになりましたし、だんだんと産道も広がって、スムーズに生み落せるようになった気がします。
それでももちろん、毎回、産みの苦しみはあるのですけど。
そのことを踏まえた上で、コンディションをうまく整えられるようになったのは、自分の中ではかなり大きな成長だと思っています。

『リボン』は、再びポプラ社の吉田元子さんに担当していただいた、私の中ではとても大きな意味のある作品です。
この物語は、絶対に吉田さんの下で書こうと、最初から決めてありましたので。そのタイミングが訪れるまで、もう、七、八年くらい、そっと胸の中で温めていたことになります。
本当に、私は親鳥が卵を温める気分で、物語を書いていました。

第一稿では、全く違うラストシーンになっていました。
でも、なんだかそれでは違うような気がして、今のような内容に変更しました。
そのシーンだけですが、なんとなく私の頭の中では、ひばりさんが吉田さんに、私がリボンになっています。

リボンは鳥であり、誰かを勇気づけようとか、誰かと誰かを結び付けようなんて、きっと、これっぽっちも考えていません。
ただ、そこにいて、生きているだけです。
でもそれでも、ある時は目の前の人を励ましたり、ある時は少し離れた場所から笑わせたり助けたりと、かけがえのない存在になっていきます。
小さな体で、人と人や、人と鳥を結んでいく。

それはきっと人も一緒で、私を含め、それぞれの人がリボンの役目を果たしているのだと思います。
だからすべての生きとし生けるものは、ただそこにいるだけで、使命を全うしているのではないかと思うのです。

取材をする中で、「とり村」代表の松本荘志さんにお話をうかがいました。
鳥を保護するような施設があったらいいな、と思っていたら、実際にあるのですね。
作中に登場する「鳥のいえ」のモデルは、「とり村」です。
松本さんがおっしゃるように、鳥は平和のシンボルです。
風景の中に鳥がいるだけで、なんとなく、幸せな気持ちに包まれます。
私自身、この作品を書いている間中、ずっと幸せな気分でした。

今回もまた、私の作品に素敵な衣装を着せてくださった大久保伸子さん。
素晴らしいイラストを描いてくださったGURIPOPOさん、本当にありがとうございました!
GURIPOPOさんのイラストを雑貨屋さんの店頭で見かけた瞬間、私が勝手に一目ぼれしてしまったのでした。
それで、「asta*」の連載の時から、GURIPOPOさんにイラストを描いていただきました。
毎回、どんなイラストを描いてくださるのか、本当に楽しみで楽しみでなりませんでした。

今回は、『リボン』と一緒に、『つばさのおくりもの』というお話も、同時刊行となります。
このような形で、GURIPOPOさんと共に一冊の本を作ることができ、心から嬉しく思っております。

多くの方の支えにより、ようやく『リボン』が羽ばたきます。
かかわってくださったすべての方に、お礼を申し上げます。

そして、縁あってこの作品を手にしてくださる、読者の皆様。
ありがとうございます。
読み終わった後に、優しい気持ちになっていただけたら、幸いです。
少しでも、ハッピーが訪れますように。

2013年4月
風の強い、よく晴れた日に
小川糸

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