ペンギンと暮らす

どなたですか?

2018.11.28 Wed

電話が鳴った。
「もしもし?」
「fijawo;fdfheufdierp」
何か言っているけれど、よくわからない。
「もしもし?」
けれど向こうは、親しげに話しかけてくる。
でも、本当にわからなかった。
間違い電話かなぁ、と思ったものの、もしかするとペンギンの知り合いが酔っ払ってかけてきているのかもしれず、そうそう邪険にもできない。
いきなり電話を切るわけにもいかないし、困ったな。
受話器を持ったまま、しばらく途方に暮れてしまった。
スマートフォンなら相手がすぐにわかるけれど、私のは固定電話なので向こうから名乗ってくれないと、相手が誰かわからない。
そういう場合は、声で判断するしかない。

「どちら様ですか?」と言いかけ、いい加減もう切ろうかな、と思った時、
「お母さん、本当にこの電話で合ってるのー?」
と向こうで叫ぶ声がした。
ん? お母さん??
数秒後、受話器から聞こえてきたのは、石垣ねーさんの声。
やっとわかった。
なんと、電話をかけてきたのは、息子のタオだったのだ。

中学3年生になったタオは、すっかり声変わりして、以前のちびっこの面影は、全くなくなっていた。
狐につままれたような、とはまさにこのこと。
タオだとわかってからも、あまりの変貌ぶりに頭がついていけない。
おかしくて、ゲラゲラ笑ってしまった。

タオは、電話口で、私に、「ネーネー、ネーネー」と以前と変わらない呼び方で呼びかけていたのだ。
でも、声が変わったせいで、本来の意味の「ネーネー」には到底聞こえなかった。
「ネーネー、いっつも日本にいないからさー」
と、タオはいたって今まで通りに接しているのに、声が変わったせいで、私はまるで突然スナックのママに抜擢されて、常連さんに「ネーネー」とダミ声で甘えられているような、こそばゆい気分になってしまった。
ごめん、タオ。
本当に全然わからなかったのよ。

前に会ったのが、小学6年生の時だったから、この3年間で、目まぐるしく成長したのだと思う。
声だけでこんなにびっくりなのだから、実物を前にしたら、腰を抜かしてしまうかもしれない。
最初に会った時はまだ幼稚園児で、恥ずかしくてテーブルの下に潜っていたのに。
十年が、あっという間に過ぎてしまった。

今回のように、一年くらい間をあけて人に会うと、その人の見た目の変化が如実にわかる。
この間も、近所の商店街を歩いていて、八百屋のおばさん、ずいぶん老けたなぁ、とか、自転車屋のおじさん、前より腰が曲がったなぁ、とか、そんなことばかりが目について仕方なかった。
同じマンションに住む子どもは、いきなりぐんと成長していて度肝を抜かれる。
もちろん、それだけ自分も老いているわけだけど。
毎日のように鏡で自分の顔を見ていると、そのことになかなか気づけない。

面白いのは、自分よりうんと年上だったり、うんと年下だったりする人たちの変化はとてもよくわかるのに、同世代の人に会うと、つい、「全然変わりませんね!」と思ってしまう。
変わっていないわけないのに。
でも、不思議と、あまり変化がわからない。
あれは、相手を自分に置き換えて、贔屓目で見ているのだろうか。

2週間くらい前、スーパーにもうお正月飾りが売られていて驚いたのだけど、よく考えたら、もう11月も終わって、あと数日で師走を迎える。
ベルリンにはもう雪が降って、クリスマスマーケットも始まっている。
自分の心だけが追いついていないだけで、世の中はもう年末ムードなのだ。

というわけで、ここ最近のお楽しみはシュトレン。
去年、ドイツで期待して食べたけれど、やっぱりうちの近所のお菓子屋さんのシュトレンの方が、ずーっと美味しい。
しかも、今年のシュトレンは、今までよりも更に美味しい。

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そして今夜も、冷凍庫から発掘したカジキマグロの醤油漬けを焼いて食べる。
水分が抜けて小石のようにカチカチになっていた赤味噌は、なんとかほぐして柔らかくし、みりんで甘くしてふろふき大根に。
こういう時、出し惜しみせずに柚子を添えられるのが、なんとも幸せ。
柚子は、寒い冬を笑顔に変えてくれる、とっておきの食材だと思う。

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