ペンギンと暮らす

断る力

2018.10.02 Tue

週末、1泊でパリに行ってきた。
がんばれば日帰りもできそうだったけど、まぁ、1泊くらいしてもいいかと。
今回は、いつもしないことをしてみようと思って、行きも帰りも、シャルル・ド・ゴール空港からバスに乗ってみた。
そして、オルセー美術館に行った。
何度もパリに行っているけれど、オルセー美術館は初めてだ。

確か、数年前に改装したんだっけ?
印象派の作品を中心に、巨匠たちの作品が勢ぞろいしている。
随分前に一度ルーブル美術館に行ったのだけど、あまりに作品の数が多くて、疲労困憊したのを覚えている。
規模からいっても、私はオルセー美術館の方が好きだ。

印象的だったのは、やっぱりというか、ロダンの作品だった。
ロダンが生み出した作品には、人格がある。
それまでの彫刻作品と、明らかに違うように感じた。
でも、それにも増して感動したのは、並べて飾られていたカミーユ・クローデルの作品だった。
ロダンの作品に人格があるなら、彼女の生み出した作品には感情がある。
ロダンが絶えず理想を追い求めていたのに対して、彼女は常に現実を直視していたんじゃないかと思った。
小さいけれど、老婆の裸体の作品なんか、肌の垂れ具合とか、本当に鬼気迫るものがある。
彼女の作った作品を見て、日本人女性のグループが、「なんか怖いね」と感想を述べていたのも、納得だ。

それにしても、みなさんよく写真を撮るなぁ。
ひと昔前まで、作品にカメラを向けているのは日本人だけだったけど、最近は、みなさん押し並べてスマートフォンで写真を撮っている。
作品を見に来ているのか、写真を撮りに来ているのか、わからないくらいだ。
果たして、その撮った写真をのちのち振り返って感動に浸る割合は、どれだけだろうかと意地悪なことを思った。
みなさん写真を撮ろうとするので、名画の前はすごい混雑になっていた。
私は、よっぽどの好きな作品でない限り、写真に残すことはしない。
だって、あれこれ撮っても、結局は削除してしまうのだもの。

夜、期待していて行った日本人シェフのアジア料理は、んー、私的にはイマイチだった。
きっと、まだ若いのだろう。
すべての料理がこってりしていて、休む暇がない。
お昼もフランス料理を食べたらすっかり疲れてしまい、翌日のお昼はどうしてもうどんが食べたくなった。
バターをたくさん使うフランス料理を、私は年々受け付けなくなってきている。

うどん屋さんには、行列が出来ていた。
お財布の中身を気にしつつ、えいやーと思って、天ぷらうどんを頼む。
日本にいたら考えられないような高級うどんになったけど、まぁ、異国の地だし、どうしても出汁を浴びるように飲みたかったので、仕方がない。

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うどんを満喫した後は、近くのカフェに行ってクーペを堪能する。

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こちらは、大正解。
イチゴか桃か選べると言われて、とっさにイチゴと答えてしまったけど、食べながら、やっぱり桃にすればよかったと悔やまれた。
こういう咄嗟の判断、私は苦手。
いつも後悔する。

それにしても、悲しい。悲しすぎる。
さくらももこさんに続いて、樹木希林さんも、亡くなられた。
おふたりとも大好きだったけど、特に樹木さんは、本当に心から尊敬していた。
死生観も含めて、生き方そのものが、あっぱれだった。
かっこいいし、独自の審美眼と哲学とユーモアをお持ちで、いいたいことははっきりと口にし、どんな大変な局面もさらりと身を交わす軽やかさがあった。
ご冥福をお祈りします。

先日、樹木さんを偲びながら、樹木さんが出演されたドキュメンタリーなどを見て過ごした。
面白かったのは、伊勢のうどん屋さんに入って、そこのお店の女性が、樹木さんに着てほしいと、法被のようなものをプレゼントしようとした時、樹木さんが頑なにそれを固辞して、絶対に受け取らなかったことだ。
その時に樹木さん自身もおっしゃっていたけれど、もらってしまうことの方が簡単なのだ。
けれど、自分のところに来たってそれが活かされるわけではないから、それをもっと心から喜んで使ってくれる人のことに行った方がそのものにとっても幸せなのだ、という理由には、本当にその通りだ、と納得した。
断るのって、めちゃくちゃ難しい。
その場を取り繕って受け入れてしまった方が、よっぽど楽。
樹木さんの断る力は、お見事だった。

断るといえば、私の場合、基本的に仕事の依頼は出版社の担当編集者を通して連絡をいただくのだけど、まれに、直接私のところに依頼が来ることがある。
その中で、最近ふたつ、メールで送られてきた依頼があって、どっちにも、間違いがあった。
ひとつは、私の書いた本のタイトルが『ツバメ文房具店』になっていて、もうひとつは、私の名前が、途中から「小山さん」になっていた。

いや、いいんですよ。
私は別に、そんなことで腹を立てたりしないし、そういう間違いは、誰にだってある。
ただ、仕事の依頼となると話は別で、別に間違ってても構わないけれど、その仕事を引き受けようという気持ちにはならない。
なので、きっぱりお断りした。
多分相手は、私がどうして断ったのか、わからないだろうけど。

メールだからなんだろうな。
簡単に送れる。けれど、間違いも犯しやすい。
でも、大事なメールだったら、何度か読み直さなきゃねぇ。
一度出したメールをもう一度戻せるような技術が開発されたら、きっとお世話になりたい人がごまんといるはず。
私も、樹木さんみたいに、もっと粋に断れる人になりたい。

日に日に、秋が深まっていく。
私は、2週間後には、わーい、日本だ。
観光客になった気分で、日本を思いっきり楽しもう。

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