ペンギンと暮らす

大親友

2019.11.21 Thu

ベルリンに来てよかったことのひとつは、ひろえちゃんに会えたことだ。
ひとつ、というか、それがすべてだったと言っても過言ではない。
わたしはそんなにすぐに人と親しくなるタイプではないし、友達は少数精鋭に限ると思っている。
数よりも、質で勝負だ。
そういう意味では、誰にも負けない自信がある。

ひろえちゃんと初めて会った時のことは、今でも忘れない。
2年前の初夏。
紹介してくれたのは、みゆきちゃんだった。
みゆきちゃんはベルリン在住の美容師さんで、わたしも、ひろえちゃんも髪の毛を切ってもらっていた。
そのみゆきちゃんから、何度も、「今度紹介したい人がいるの。彼女は絵を描いててね、絶対に糸さんと会うと思う」と言われていた。
ひろえちゃんもひろえちゃんで、同じように、みゆきちゃんから言われていたという。

場所は、ワイン広場だった。
夏の間だけ、そこにワインの蔵元が来て、自分のところで作ったワインをみんなに飲ませてくれるのだ。
食べ物の持ち込みは自由なので、各自、何か食べ物を持ってこよう、ということで待ち合わせした。

わたしは、ポテトチップスを持って行き、みゆきちゃんは畑で収穫したばかりの新鮮な野菜を持って来て、ひろえちゃんは手作りのサンドウィッチと卵焼きを持ってきていた。
そこで、意気投合した。
わたしは、ひろえちゃんを勝手に、魂の片割れみたいな人だと感じた。
わたしは物語を「書く」人で、ひろえちゃんは絵を「描く」人。
表現方法は違っても、同じ熱量で、同じ真剣さでかいていると思った。

ワイン広場は、確か夜の9時くらいにお開きで、その後わたしたちは、すぐ近くのフランス料理屋さんに場所を変えて、更にそこでもワインを飲んだ。
金曜日の夜だったと思う。
結局、店を出たのは深夜の1時過ぎで、3人でぐでんぐでんに酔っ払ったまま地下鉄に乗って帰ったのを覚えている。

それから、急速に親しくなった。
うちに集まってご飯を食べては、夜遅くまで、飽きもせずに話し続けた。
話していた内容は、命、宇宙、生命の誕生、死。
死んだらどうなるんだろう、ということを、本当に真剣に話し合っていたっけ。

ちょっと郊外のカフェまで遠足に行ったり、泊りがけで温泉に行ったり、いつも3人で一緒に遊んでいた。
みゆきちゃんは何年か前にガンを患っていたけれど、わたし達はそれはもう終わったこととして、ふつうに接していた。

みゆきちゃんの体調がよくなくなって、結果的にガンが再発したのは、去年の冬だった。
ちょうど、3人で温泉に行った直後で、検査の結果、再発していることがわかった。
それでも、わたしもひろえちゃんも、そしてみゆきちゃん本人さえ、引き続き、3人でどこかに行ったりできる、と思っていた。

だけど、みゆきちゃんは去年の夏、息子を連れて日本に帰省したまま、体調が悪化してベルリンには戻れなくなった。
それで、アパートにあった荷物を、周りにいた何人かの仲間で、バザーをしたりして、なんとか空にした。
みゆきちゃんの具合は、どんどん悪くなった。

どうしてもっと強く手術を勧めなかったんだろう、とか、周りにいた人たちは、それぞれ苦しい思いをした。
彼女にはまだ小学生の息子がいて、ましてやシングルマザーだったから、もっと他に方法があったんじゃないかと、それぞれ複雑な思いを胸に抱えた。
みゆきちゃんは、人が最期、どんなふうに死に向かうのかを身を持ってわたしに教えてくれた。
その姿は、少なからず、『ライオンのおやつ』に反映された。
みゆきちゃんには、わたしがホスピスを舞台にした物語を書いていることを話していた。
そして彼女は、「わたしは当事者だから、なんでも聞いてね」と明るく言ってくれていた。

みゆきちゃんが亡くなったのは、一年前の11月。
来週、ひろえちゃんのロンドンでの個展に合わせて、わたしとアーティストトークをする日は、みゆきちゃんのまさに命日だ。

わたしの作品の中にも、ひろえちゃんの作品の中にも、みゆきちゃんは生きている。
たとえ人が亡くなって体は消滅しても、その人の持っていたエネルギー自体は、決してなくならない。
空気みたいに、そこらじゅうに、存在している。
わたしは、死とはそういうものだと思っている。

今日はアーティストトークのために、美容師さんに来てもらって、ふたりで髪の毛を切ってもらった。

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それから、ゆるゆるとワインを飲みながら、アーティストトークのリハーサルをやった。
大のあがり症のひろえちゃんにとって、今回のアーティストトークは大きな挑戦だ。
来週の火曜日はきっと、いい時間を過ごせると思う。
そして、そのことを誰よりも喜んでくれているのは、みゆきちゃんだろう。
すべて、みゆきちゃんが仕込んだことに思えてならない。

わたしは、明日からロンドンへ行ってきますね!
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このムラサキシキブは、ひろえちゃんが、わたしの誕生日プレゼントにくれたお花。
わたし達3人の友情は、まだまだまだまだ、続いていくよ!