ペンギンと暮らす

真夜中の森の奥深く

2019.06.28 Fri

フィルハーモニーで行われたBaltic Sea Philharmonic のコンサートへ行ってきた。
最近、伝統的な靴箱型のコンサートホールがいいのか、それとも新しい葡萄畑型のコンサートホールがいいのか、ちょっとした論争になっているようだけど、フィルハーモニーはまさに葡萄畑コンサートホールの代表格。
外から見ると、巨大なサーカステントみたいな形をしていて、中に入るとすり鉢状に席が配され、それが規則的ではなくて不規則な配置になっている。
近未来的というか、宇宙船の中にいるようで、いつも入るたびにワクワクする。
自分のお財布と相談しながら、いろんな席で、いろんな角度からコンサートを楽しむことができるのだ。

今回のコンサートのタイトルは、「Midnight Sun」。
客入りの時点で、照明が極力おとされている。
そして、ステージ上の椅子はまばらにしか置かれていない。
コンサートが始まると、更にホール全体が薄暗くなり、様々な入り口から、演奏者たちが、楽器を弾きながら登場する。
ステージからだけでなく、ホールの至るところから音が鳴り、それらがゆっくりとステージの上へと集まっていく。
あっという間に幻想の世界へと引き込まれた。

ステージ上では、バイオリンやヴィオラの人たちは立ったまま演奏。
時々登壇するソロのヴァイオリン奏者は、美しいドレスに裸足だった。
今回のコンサートのテーマは、自然と神秘で、わたしはまさに、真夜中の森の奥深くで開かれる秘密の演奏会へ招かれたような気分になる。
まるで薄い氷の上をみんなが息を殺して歩くような緊迫感のあるシーンがあったかと思えば、エネルギーあふれるヴァイオリンのソロに酔いしれたり。
特別ゲストとして呼ばれていたヴォーカルも、オーケストラの音と見事に融合していた。
鳥のさえずりや、動物の声も混じって、そこはまさに真夜中の森。
ひんやりした風や、しっとりとした植物たちの吐息まで、感じられそうだった。

わたしは、数年前にラトビアで参加した夏至祭を思い出した。
流れている空気が、全く一緒だった。
自然への感謝の気持ちと、今、自分たちがここに生きていることへの喜びが溢れている。
バルト三国好きのわたしには、たまらないオーケストラだ。

合計七つの曲をひとつに繋げた構成で、その間は休まず演奏。
通常は間に休憩が入るのだけど、それもない。
しかも、驚くことに、楽譜を見て演奏している人がひとりもいない。
全員が、暗譜してステージに立っているのだ。

7曲の中には、わたしの大好きなエストニア人の作曲家、Arvo Pärt の曲も含まれていた。
真夜中の静寂の中にも、ざわめきがあって、躍動がある。

ステージに立つ演奏者たちの個性が光っているのも、印象的だった。
衣装は、青系か赤系か、どちらかを着ていて、身をくねらせるように情熱的な動きで音を奏でる人もいれば、静かに、内側の情熱を内にためたまま演奏する人も。
けれど、そこに立っている人たちの集中力はすさまじく、何よりも、演奏していることに対する喜びがひしひしと伝わってきて、そのことに感動した。
きっと、彼らにとっても、フィルハーモニーで演奏するというのは、とても大きな喜びだったに違いない。

Kristjan Järvi の指揮も独特で、とにかく素晴らしく、感動した。
クラシックの世界なんてずっと同じだと思っていたら大間違いで、こうして、従来の殻を破って、新しいオーケストラの形が産声を上げている。
どうやらこの形は、世界中で誕生しているようで、今後、更にどう進化していくのか、楽しみだ。
じっと座って楽譜と睨めっこしながら演奏するより、自由に立ったり移動したりしながら演奏するのは、演奏者たちにとっても楽しいんじゃないだろうか。
果敢に挑戦する姿が、最高に清々しかった。

2時間弱、一切の休みなしに行われた本演奏の後は、アンコールがあったのだけど、そこでは男性と女性に分かれて、混声合唱も披露された。
楽器のプロなのに、歌声もまた見事。
演奏を無事に終えた彼らの声は熱を帯びていて、それまでとまた違った音色がホールにしみわった。
そうそう、この歌声が好きなのだ、とわたしは更に深く感動した。
最後は観客がみんな立ち上がって、拍手喝采。
演奏者たちがステージを去る際も、音を鳴らしながらステージの袖に戻っていく。

夜の10時過ぎ、外に出ると、まだ空は明るかった。
今年は夏至祭に行けなかったけど、コンサートで夏至祭の気分が味わえた。
パンフレットによると、オーケストラのメンバーの出身国は、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国のほか、ポーランド、ロシア、フィンランドやデンマークなど多岐に渡る。
今はまだ小さな産声かもしれないけれど、こういう新しいスタイルが主流になる日が来るかもしれない。

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そしてわたしは明日から、韓国へ出張だ。
これから荷造りをして、行ってきまーす。