ペンギンと暮らす

『母なる証明』

2019.01.17 Thu

大晦日に、バスルームで見ようと思ってレンタルしていたのが、『母なる証明』だった。
きっかけは、去年の12月にソウルで角田光代さんにお会いしたこと。
実は、それまで全く面識がなく、お話をする際、何か共通点があるのだろうかとドキドキしていたのだ。
というのも、角田さんは猫派で肉党、私が好きな野菜のあれこれを角田さんはことごとく敬遠しており、しかもエッセイ集を拝読したら、正確ではないけれど、「日曜日に雨が降ったら家で豆を煮て過ごすような女とは友達にならないだろう」的なことが書かれていた。
わー、雨の日曜日に豆を煮るなんて、それってズバリ私のことだと思い、お会いするまでは不安だったのだ。
食べ物の好みに的をしぼったら、全くの正反対だった。

でも、心配はもちろん取り越し苦労だったのだけど。
仕事のやり方など大事な共通点はいくつかあったし、その中でももっと盛り上がった共通の話題が、韓国映画だった。
角田さんも私も、大の韓国映画ファンで、お互いに、あれは見ましたか? こっちはどうしたか? と話に花が咲いたのだ。
韓国映画と言っても甘ったるいラブストーリーの方ではなく、硬派な方で、ジャンルではサスペンスに分類されることが多いけれど、サスペンスという一言ではくくれないような、社会的なテーマを扱った作品だ。

そういう韓国映画が素晴らしいのは、決して日本だったら目をそむけたり、水に流してしまいそうな社会問題を(たとえば、児童虐待とか、差別とか)、思いっきり暗部にまで踏み込んで、そこから目をそむけず、逆に光を当てて、しかもエンターテーメントとしても存分に楽しめる作品に仕上げてしまうことだ。
こんなテーマを日本だったら題材にしないだろうなぁ、というところを問題提起して、見る側にずどんと重いボールを投げかける。

以前見て感動した『トガニ 幼き瞳の告発』も、まさにそういう映画だった。
ちなみにこの作品は、去年、フランスのオセール文学祭でご一緒したコン・ジヨンさんが原作者で、ろうあ学校で実際に起きた子ども達に対する性的虐待を題材にしており、この映画が公開されることにより、韓国では「トガニ法」という法律が定められたという。
それくらい、映画が社会に対して大きな影響を与えている。

あとは、『殺人の追憶』も素晴らしかった。
この作品は角田さんもご覧になっていて、ふたりで、本当に見事ですよねー、と言い合った。
残念ながら角田さんに教えていただいた『シークレット・サンシャイン』は今の環境では見られなかったのだけど、またむくむくと韓国映画が見たくなって、それでたどり着いたのが『母なる証明』だったというわけ。

まず、映画の始まりからして、謎に満ち溢れていた。
そのことが、映画を見ている間中、ずっと頭に引っかかっている。そして、最後に、ようやく謎が解けた。
それにしても、映像がどこを切り取っても美しい。
音楽も良く、映画らしい映画という気がした。
そして、韓国社会に根付く障害者への差別や貧富の差、警察のズサンさなど、随所に社会的な強いメッセージが込められている。
見事としか言いようのない映画だった。
見終わった時には放心状態。
すぐに、もう一回見たいと思った。

驚くことに、公開されたのは、もう10年も前。
それなのに、少しも古びていない。
そして、どことなく見終わった時の余韻が『殺人の追憶』に似ているなぁ、と思ったら、それもそのはず、同じ監督の作品だった。
原案も脚本も監督も、ポン・ジュノさんだという。
なんという才能の持ち主なのだろう。
日本では『母なる証明』というタイトルで公開されたけれど、韓国では『MOTHER』という題がつけられていたそうだ。
母親が息子を愛する姿の美しさと怖さが、これでもかというくらい、目を背けたくなるほどの洞察力で描かれている。

映画といえば、ベルリンでも、『万引き家族』の公開が始まっている。
暮れに飛行機の中で見たのだけど、ドイツ語の勉強も兼ねて、もう一回映画館に見に行ってくるのも、いいかもしれない。
もうすぐ、ベルリン映画祭も始まるし。
楽しいことだらけだ。

追伸。
更新するのを忘れていた去年の日記、順番が逆になってしまいますが、あげておきますね。