ペンギンと暮らす

サイン会

2018.05.18 Fri

もう何回目になるのかわからないパリだけれど、毎回来るたびに、ため息が出る。
よくぞここまで、人の力だけで美しい街を作ったものだと感心する。
あっちにもこっちにも、まるでデコレーションケーキのような装飾が散りばめられていて、目のやり場に困ってしまう。
ドイツが引き算の文化なら、フランスは足し算の文化だ。
いろいろな物がいちいち色っぽい。

ただ、空港から街の中心部に来るタクシーの中から、いつになくホームレスの人の姿が目についたのは確かだ。
貧富の差が激しいという現実を如実に感じる。
滞在した左岸のホテルのそばにも、多くのホームレスの人を見かけた。
美しい装飾がほどこされた回廊と、その一角に横たわるホームレスの人の姿の対比が、とても切ない。

もちろん観光客は多いにはしゃいでいるけれど、パリっ子たちは、なんだかとても疲れている。
私の気のせいかもしれないけれど。
これだけテロで狙われたら、健全な心も疲弊してしまうだろうな、と思った。

それでも、雰囲気のいいカフェのテラス席で新聞を読む赤いズボンをはくおじさんや、ピンクのマフラーをさりげなく首に巻くおばあさんの姿に、パリっ子の気概のようなものを感じる。
がんばれ、パリ! とエールを送りたくなった。

パリでは、インタビューをいくつか受けて、本屋さんでサイン会を行った。
パリの、そんなに中心部とはいえない、小さな町の本屋さんなのだけど、商店街にあって、地元の人がふらりと立ち寄るような、そんな本屋さんが私はとても好きだった。
決して広くはない店の一角に、机と椅子が用意されていて、私はそこに座ってお客さんを待つ。
机には、店の包装紙が貼られていて、なんとも手作りなのがまた良かった。
店がある商店街は基本的に歩行者天国で、店の入り口から、お向かいにある八百屋さんに並ぶ野菜が見える。
そこで、ぼんやりと2時間、読者の方を待っていた。
のどかな時間だった。

フランス語に訳されている作品は、『食堂かたつむり』と『リボン』と『虹色ガーデン』があって、この夏に、4作目の『ツバキ文具店』が発売になる。
来てくださった読者の方が、自分の鞄から、年季の入った私の本を取り出して、その本に、私は日本語でサインをする。
異国の地でも自分の作品が読まれている、なんて普段なかなか想像がつかないけれど、こうして、実際に外国の読者の方にお会いすると、改めて不思議な気持ちになる。
ちゃんと届いていることを、肌で感じる。
なんて幸せなことなんだろう。

その後は、本屋さんの近くのカフェに移動して、ル・モンド紙のインタビューだった。
もう夕方の7時を過ぎていたので、ワインを飲んでもいいですよ、とのこと。
私も、そして相手のジャーナリストも、ワインを飲みながら話す。
こういうことは、日本だったらありえないので、とても楽しい。
せっかくこの世に生を受けたのだから、人生を思いっきり楽しまなくちゃ! というフランスのエスプリを、日本人も少し見習うといいのかも。

そして今日は、パリからオセールへ移動した。
フランス語で書くと、AUXERREで、通りで、ローマ字で「オセール」と調べても、なかなか情報が出てこなかったわけだ。
パリから、電車で2時間くらいの小さな町。
町の中心をヨネ川が流れていて、町のシンボルは大聖堂。
地域としては、ブルゴーニュ地方にある。

駅に降り立った瞬間から、この町がとても好きになった。
今、夜の8時で、外はまだ明るい。
木漏れ日がとてもきれいで、開け放った窓からは、小鳥のさえずりと大聖堂の鐘の音が聞こえてくる。
さっきふと、今日は日曜日だっけ? と思ったほど、時間がとてものんびり流れている。
なんて穏やかなできれいな町なんだろう。

今日はこれから、みんなでディナーの予定。
明日はゆっくりと町を歩いてみよう。

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