ペンギンと暮らす

きのこのなぐさめ

2019.12.03 Tue

ロンドンにいる間、『きのこのなぐさめ』という本を読んでいた。
日本から戻って以来、時差を引きずっているのか、朝4時くらいには目が覚めてしまう。
それで、ベッドに入って本のページをめくりながら、朝が来るのを待っていた。
作者は、ロン・リット・ウーンというマレーシア人の女性で、彼女はノルウェーに住んでいる。

この本は、突然愛する伴侶を失った彼女が、きのこに出会うことで、いかにして悲しみから立ち直ったかを綴った本だ。
内容など何も見ず、ただタイトルに惹かれて衝動的に買った本だったけど、今のわたしには読むべくして出会った必要な本だった。

その中に、こんな文章を見つけた。
「どんなに長い夫婦生活も、終わりは二通りしかない——離婚か死のどちらか。」
この一文が、ずしんと胸に突き刺さった。

わたしはずっと、自分の使命は、ペンギンを看取ることだと思って生きてきた。
歳が離れていることもあり、当然それは自分がすべきことで、添い遂げることが、自分の人生の目標であると思い込んでいた。
でも、いくら最期を添い遂げたからといって、そこに愛情や優しさがなかったのなら、それは全く意味がない。

自分の感情に目をつぶって、この先もみせかけだけの関係を続けることも、やろうと思ったらできたのかもしれない。
でも、「じゃあ、その間のわたしの人生は、どうなってしまうのだろう?」と考えるようになった。
それは、『ライオンのおやつ』を書いて、わたし自身が雫からつきつけられた重いテーマだ。

付き合って25年、結婚してからも来年で20年になる。
彼と出会った時、わたしは21歳でまだ大学生だった。
若くて、世間知らずで、未熟者だった。

共に年月を重ねるうち、見える風景が変わり、価値観がかわり、考え方、生き方の違いがあらわになった。
それでも、幸福な思い出の方が圧倒的に多い。
でもこのまま関係を続けたら、それが逆転してしまう。
だから、別れることにした。

ありがとう。
そして、これからもよろしくお願いします。
今、彼に伝えたい言葉は、これだけ。
そして、読者のみなさんにも、やっぱり同じ言葉を届けたい。

先日、山形に行った時、姉が教えてくれた話が印象的だった。
わたしは全く記憶にないのだけど、母は、子どもたちの服も、手作りするような人だった。
けれど、作っている最中に話しかけようものなら、すごい剣幕で怒られたのだという。
正確には、怒られた、という表現では足りない。もしかすると、そのことで叩かれたりしたのかもしれない。
子どもからしたら、手作りの服なんて縫わなくていいから、その時、甘えさせてくれたり、いっしょに楽しい時間を過ごしてくれたりした方が、よっぽど嬉しかったはずだ。

わたしも危うく、母と同じ過ちをおかすところだった。
添い遂げる、という結果だけにこだわって、その間の過程をおろそかにしていた。
でも、大切なのは、結果ではなくて、その過程なのだと思う。
またひとつ、母が大事なことを教えてくれた。

当初は、お互いがお互いのよき奏者として、美しいハーモニーを奏でられていたのだと思う。
けれどだんだん、不協和音ばかりが目立つようになった。
何かを始めるのは簡単でも、何かを終わらせることは、とても難しい。
だけど、わたしはあえて、困難な道を進もうと思う。

この先、もうペンギンと暮らすことはなくなった。
だからこの日記も、年内でひとまず終了ということにします。
年内いっぱいは日記を続けますが、一月はほぼおやすみします。
そして、心機一転、サイトをリニューアルすることにしました。

新しく生まれ変わる「糸通信」は、旧暦の元日からスタートしようと思っております。
楽しみにお待ちいただけましたら幸いです。

わたしは、明日からラトビアへ。
首都のリガで開かれるリーディングフェスティバルに招待していただいたのだ。
冬のラトビアを訪れるのは初めてなので、本当にワクワクしている。

そして、もうすぐ『ミ・ト・ン』の文庫本も発売になる。
今回は、平澤まりこさんの挿絵が、すべてカラーで入っている。
解説は、森岡書店の森岡督行さんに書いていただいた。

とても素敵な本になりましたので、ぜひお手にとってご覧いただければと思います!

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寒くなってきましたので、みなさま、風邪など引かないように気をつけてくださいね。

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